Q3 「かみ添」の嘉戸浩さんとはどんなやりとりをしたの?
ZUAN & ZOKEIのプロダクトの成り立ちや誕生秘話を、鹿児島睦とともにたどる Talk with Makoto Kagoshima。Vol.4は、唐紙です。
鹿:僕は、できあがった図案を嘉戸さんにお送りしただけです。色や構図に関しては「嘉戸さんの好きなようにしてください」とお伝えしました。
b:嘉戸さんは職人さんなので「好きなように」というのに、最初は戸惑われたようでしたね。
鹿:そうでしたね。注文に忠実に答えるのが職人さんですから、戸惑いはあったようです。でも最終的には、光の当たり方で見え方の変わる金や銀を使ったり、二色刷りしたりと、斬新な配色にも挑戦してくださいました。
b:紙の選定や色の組み合わせは、ほとんど嘉戸さんにお任せしましたね。特に、ザクロのインテリアパネルは、ツートーンにするなどアレンジがきいていました。
鹿:全面的にお任せしましたが、実は、ひとつだけ嘉戸さんにお願いしたことがあるんです。
b:そうでした。「汚し」のことですよね?
鹿:はい。僕は、陶芸作品をつくるときに、お皿の中にわざと、塗り残しとか削り残しを入れるんですね。
b:あえて、それを入れるんですか。
鹿:はい、あえてですね。陶芸家はこれを「汚し」と呼ぶんですが、この汚しは、絵の背景となる素材とその上にあるイラストレーションをつなげる役割を担っていると僕は思っています。
b:それは、手作りの味のようなものですか?
鹿:そうだと思います。
b:唐紙でも、その味を表現したいと思ったんですね?
鹿:そうなんです。それで、嘉戸さんにあえて、汚しをお願いしました。
b:嘉戸さんは、当初「それは難しいかもしれない」とおっしゃったとか。
鹿:はい。嘉戸さんは、僕のお願いをすぐに理解してくださいましたが、彫り師さんにはお願いしにくいかもしれないとおっしゃいました。汚しもデザインとして表現し、彫り師さんに指示するほうがよいだろうということでした。
鹿:汚しは、パッと見てわかるものではないんですが、どうしても入れたかったので、嘉戸さんには「完璧でなくていい、仕方なく汚しが入ってしまうというのがいいんです」とお伝えしました。
b:同じ手仕事といっても、鹿児島さんと職人さんでは、手仕事の味に対しての考え方が異なったということでしょうか。
鹿:そうだと思います。僕の考えている汚しは、彫り師さんにとっては、彫り残しになるということなので。
b:最終的には、嘉戸さんが鹿児島さんのリクエストを形にしてくれました。
鹿:嘉戸さんは、僕の考えている汚しと、彫り師さんの汚し(彫り残し)のあいだに差があってはいけない、僕の考えているデザインに彫り師さんが別の考え方を入れてはいけないと感じてくださいました。
b:時間をかけて、進めてくださいましたね。
鹿:嘉戸さんは、時間をかけて、僕のうつわの絵付けや汚しの入り方を見て、たくさん研究をしてくださったうえで、彫り師さんに通訳してくださったんだと思います。
b:コラボレーションがいい方向に向かい、実現していったのはとてもよかったと思います。
鹿:ほんとうにそうですね。僕は、自分の図案に人の手でアレンジが入ることは、とても楽しいので、汚しのことも含めて、嘉戸さんに何もかもお願いしてしまいました。結果的には、とてもいいコラボレーションになりました。
次のインタビューは「久留米絣」についてです。お楽しみに。